『写真家 六田知弘「宇宙のかけら―御所 GOSE」』  ― 町家に写し撮られた「御所」という「風景」 ―


写真展 『写真家 六田知弘「宇宙のかけら―御所 GOSE」』を御所会場にて観賞してきた。
御所会場は、六田知弘氏が生まれ育った地である御所市に残る「御所まち」の町家を展示スペースとしている。
江戸時代初期に形成されたという「御所まち」に残るその町家(赤塚邸)は、屋内を拝見するだけでも価値のある、大変趣のある歴史的な建造物である。建物それ自体が、観賞の対象物として耐えうるものである。


このように、すでに「意味」を持った建物に作品を展示する場合、その効果には2つのパターンがあると思う。
一つは―僕が知っているのはこちらの方が多いのだが―、展示会場との「違和感」を狙ったもの/内包したものである。
僕の少ない美術鑑賞体験に於いては、カオス*ラウンジの『キャラクラッシュ!』展(2014)がある。展示会場となったのは、築80年以上という木造の一軒家で、会期後は、取り壊される運命を背負った建物である。その一軒家の生活スペースであった空間に展示された作品たちは、その空間に対して「違和感」や「虚偽性」を帯びており、おそらくは意図的に「暴力性」「侵略性」「恐怖」といった感覚を感じさせるよう配置されたものであった。他には、村上隆による ベルサイユ宮殿での作品展も「違和感」を内包したものだろう。


もう一つのパターンとは、展示会場に存在する作品に「違和感」を感じない作品展である。
しかし、それはつまり、その会場の特異性や意味を必要としてないという事であり、ともすれば、その会場を選択する事自体に意味がない、つまらない選択になりうる。このパターンの作品展は、僕は不勉強な為か知らない。

御所会場において、古い町家を展示会場として選択した今回の作品展『写真家 六田知弘「宇宙のかけら―御所 GOSE」』はどうだろうか。
結論から言えば、二つめのパターン、「違和感」を感じさせない作品展だと感じた。そして、「違和感」を感じないにもかかわらず町家を会場に選択している事に強い意味も感じた。
展示会場たる町家の土間を上がり、屋内に入って気づくのは、どれが作品であるのか、どの部分が本来の町家の装飾であるのか、一瞥では判然としない事である。作品には、キャプションが貼られておらず、作品を隔てる白壁も当然存在しないので、例えばふすまに描かれたそれが、果たして作品なのか、本来のふすま絵なのかが瞬時にはわからない。しかし、よく見れば、その画から伝わるある種の”神々さ”によって作品だと判別できるようになってくる。
そう、御所会場に展示された作品は、神秘的なもの/刹那的なもの/神話的なものを切り取った”神々しい”ものが多かったように思う。
そんな”神々しい”作品を、町家という生活空間に混入させれば、「違和感」を感じてしまいそうなものであるが、それに「違和感」を感じさせないのが、この作品展の白眉ではないかと思う。おそらくは、作品の選出や、配置が意識的/無意識的に、「違和感」を感じさせないように意図されているのではないか。
これは、御所という地の風土、特色によるものが大きいと思う。
御所の地に於いて撮影された作品が、御所の地に於いて展示されているからこそ、可能になった事ではないだろうか。
そして、それは、この作品展そのものが「御所」という地の特色を写し撮っている事に他ならない。


御所の風土の特徴とは、いくつもの異なった面が同居し、融和している事だと思う。
山々や森などの神秘的な自然。神社や仏閣などの歴史や謂われのある場所。そんな畏怖や神秘的な空気を感じとれる場所である”神々しい”地としての「御所」。
古くからの「御所まち」や町家を有し、連綿と続いてきた人びとの生活や暮らしの地としての「御所」。
全国水平社設立の中心人物である西光万吉の生誕の地であり、いわゆる同和地区や部落解放運動が当たり前に存在し、差別や人権問題と向き合ってきた地としての「御所」。
そんな、各々が「違和感」を持ちえる多角的な面を持ちながら、それを「違和感」ではなく、当たり前に同居し、共存しているものとして認識している。それこそが、御所の風土だと感じる。
だから、町家の”神々しい”写真たちは、御所での生活の中に存在する”もともとあったもの=神々しいもの”を撮ったものなので、「違和感」を感じさせるものとして展示や配置をしていないのではないだろうか。
御所で暮らす人にとっては、その写真は、生活の中にある”神々しい”ものを発見し、認識できたという点で新鮮な驚きがあったのではないかと思う。
そして、御所以外の人にとっては、この御所会場での作品展は、個別の「写真」の展示に留まらず、「御所という地」を現す作品展になっていたのではないかと思っている。


御所会場である町家の居間には、こたつが置いてあり、自由に入って話や六田氏の作品集を閲覧することが出来る。
作品たちに囲まれた空間の中で、連れだってこたつに入り、楽しそうに談笑する観者たちの様子を見て、なんと幸せな展示会場であろうかと感動した。
なお、御所会場のみ、土日曜日は、会場の外で、休憩場所の提供やお茶のふるまいが行われている。一見、静かな作品展とは似つかわしくない、そんな女性たちの存在は、そのおもてなし精神も含めて、御所の「風景」なのだと思う。


<写真展「写真家 六田知弘 宇宙のかけら―御所(ごせ) GOSE」>http://gose-muda.jp/